R倍数って一体なんなのさ?

id:NoShigeさんの所でR倍数について触れられていたので、それをネタに書いてみる。この概念は、投資関連書籍のなかではわりとメジャーな本*1で登場していて、Webの検索なんかでも、これに言及しているサイトがいろいろ出てくる。で、本の巻末に定義が書いてあるので、ちょっと引用。

R倍数(r-multiple)
すべての利益は初期リスク(R)の倍数として表現することができる。例えば、10−R倍数は初期リスクの10倍の利益である。つまり、読者の初期リスクが、10ドルならば、100ドルの利益は、10−R倍数利益となる。

私も過去に「R倍数ってなにさ?」というエントリをいくつか書いている。で、その時考えたのはこんな感じ。

なんとなくだけど、R倍数というのが「これから仕掛けるトレードの青写真」と「トレードの結果」をごちゃごちゃにしているからヘンに思えるんではないかと思ってきた。

青写真はいいんだよ。「−10%で損切って、+30%で手仕舞い」とか。それなら3Rとか言える。でも実際に出る結果は「+10%まで行ったんだけど、その後10%戻して、トレイリングストップ手仕舞い。結果は0%」なんてことになったりする。それは一体何Rなんだ?

定義をきちんと理解すれば、なんてことはない。最初のトレードの計画が10%損切りなら、0%の利益で手仕舞いしたトレードは0Rなんだ。損切りラインをオーバーランして、−30%でストップした場合なら、−3Rになる。結局のところ、初期リスクを1とした損益の比でしかない。システム全体の性能をこれで測っても、何か特別なものが出てくるわけじゃなくて、初期リスクを1とした比で表現された平均損益でしかない。この辺の考え方はid:NoShigeさんとは違っていて、彼の解釈では

 当ブログで表現してるこの「R倍数」は、「1トレードあたりの平均利益÷1トレードあたりの平均損失」です。

http://d.hatena.ne.jp/NoShige/20070910/1189438019
という感じ。私の解釈では、システムの性能をR倍数で測るなら

「各トレードのR倍数の総和÷総トレード数*2=平均R倍数

こうなるんじゃないかなと。この違いはRの解釈の違いが原因で、実際に被った損失と捕らえるか、仕掛ける当初に考えていたリスクと捕らえるかで変わってくる。

で、このR倍数に意味があるとするなら、損益の評価を、金額ベースではなくて初期リスクをベースとした比で表現することにあると思う。これによって、玉の大小によって損益の評価がめちゃめちゃになるのを防いでいる。仕掛から手仕舞いまでの手法の評価は必ず相対・比・%で算出しないとおかしくなる。¥100万の玉を仕込んで¥110万で売るのと、¥100の玉を仕込んで¥110で売るのが同じ性能として出てこないとおかしいから。値嵩株と低位株じゃ値動きやボラティリティが違うよ!という指摘もあるかもしれないけど、それは仕掛ける前に判断することで、結果だけを評価する以上こうするしかない。その玉をどれぐらいの量仕込むのかは資金管理ということになる。ふむ。ちなみに私は仕掛けた時の価格を100%として利益・損失を%で算出してます。
でも、システムの性能を測るだけが目的ならプロフィットファクターの方が扱いやすい概念だと思う。全トレードの総利益を総損失で割ったものがそれで、1.0より大きければ勝つシステム。1.0未満なら負けるシステムということになる。でも、なんでドクター・タープがプロフィットファクターじゃなくて、「R倍数」なんてものをわざわざ持ち出して来るのかがわからない。でも、きっと何か意味があるんだ。

で、ひとつの使い道というか「何なのか?」の私なりの解だけども、仕掛ける時点でリスクと利益の比を考慮して見込みR倍数を出してトレードが有利かどうかをちゃんと見極めなさいよ、ということなんではないかと。過去のエントリでも似たような事を書いている。

これが有効になるのは、抵抗線支持線を使った損切り利食いを計画するシステムなんじゃないかな。ある種の価格モデルを持っていて、予測しに行くような。で、その予測をR倍数という形で出して1Rに満たない仕掛は抑制する。なんて事をやるなら意味があるかも。

例えば、いつぞやの任天堂みたいに上場来高値をばんばん更新続けてるような銘柄なら10Rとかいけそうだし、逆に1年周期の正弦波を描くように株価が推移する銘柄なら、直近の波動の高安のなかで今どのポジションに来ていてどっちの方向なのかがわかれば、4Rだとか2Rだとか見積もる事が出来そうだ。
シグナルだけを見てエントリーしちゃ駄目で、どれぐらいの期間でいくらぐらい儲かるのかをトレードの計画として持て!とドクター・タープは言いたいんだと思う。そして想定しない方向に向かうならダメージを受ける前に手仕舞いした方がいいんだと。

そして、この考えでR倍数というものをとらえなおすと、システム全体の性能指標ではなくて、個々のトレード毎に仕掛前に作るトレード計画を評価する為の物差しということかなと。その為には抵抗・支持線がどこにあるのかを、システムとしても推測しないといけない、ということですかね。出口として利食い20%、損切り10%とか決めていても、今の株価の水準とこれまでの値動きから、全然フィットしていなければ、仕掛ける前にだめっぽいとか気づくこともできるだろう(アルゴリズムが決まれば)。そうすることで、システムの信頼性もちょっとは上がるんじゃないかな。

さて、システム構築のToDoにGuessSupportResistance.pmを加えておこうか。いつになるかわからんけどw

*1:魔術師たちの心理学 ― トレードで生計を立てる秘訣と心構え (ウィザード・ブックシリーズ)

*2:初期リスク=1Rなので、全トレードの初期リスクの合計はR×総トレード数と一致する。分子にもRがあるので約して元の式になる。