働く事とその報酬

昨日のエントリで、こんな事をちょっと書いた。

で、じっくり聞いていると、ちょっといいなという部分があった。2番の歌詞で、こんなの。

一生懸命働けば
僕も何かの役に立つかも

全体的には諦観が漂う歌詞の中で、ここはちょっと光っていた。これが希望ってやつなんだろうな。これがなければ、やっていけないかもね。希望、とも違うか。お金じゃない報酬、かな。二番は↓で聞けます。というか、こっちがオリジナル。

人は働いて、その報酬を日々の糧にして生きるわけだけど、最近、お金だけじゃ生きていく事は難しいと思うようになった。20代の頃は、ただがむしゃらにいろんな事をやっていただけだったけど、30代に入る前ぐらいから、「人はなぜ働くのか?」という事をちらちら考えるようになって、たまに悩んだりしたんだけど、ちょうどいい本が本屋さんにあって、それをゲット。

「良い仕事」の思想―新しい仕事倫理のために (中公新書)

「良い仕事」の思想―新しい仕事倫理のために (中公新書)

97年発行で、持っているのは初版だから、だいたいその頃に買ったんだと思う。少しづつ読んではやめ、忘れては読み直しを繰り返し繰り返し。ここ最近になってやっとこう、抱いていた疑問と合わせて、スっと感覚がつかめたと思う。ミクの歌をきっかけにピンと来るものもあったので、ちょっと書いてみることにする。

まあざっくり本の結論部分を書くと「良い仕事」には次のような条件があるそうだ。

  1. 成し遂げる意味がある
  2. 真剣で責任感ある態度を求める
  3. 生活の必要を満たす
  4. 共同生活に貢献する
  5. 善い生き方と重なる
  6. 平衡のとれた生活とともにある
  7. 仕事そのものが魅力的である
  8. 個人を成長させる
  9. 個人を超える価値につながる
  10. 求めて初めて得られる

いろいろと考えさせられる所は山盛りだけども、「お金」は10個のうち、たった一つの項目(生活の必要を満たす)でしかない。ここ最近のキーワードとしてワークライフバランスなんて言葉が出てきているけども、ただがむしゃらに仕事ばかりしているんじゃなくて、自分の家族や地域社会に貢献できる生き方をしなさい&それができる労働環境を整備しなさいというお話し。上の「良い仕事」をある程度網羅するような話で、そーゆー事をただのお題目じゃなくてまじめにやろうとしているなら、労働者として非常にありがたい話だ。

で、だ。「良い仕事」というものはお金以外にいろいろなものが報酬として受け取れる。成し遂げる事の意味、共同生活への貢献、個人を超える価値、仕事そのものの魅力。仕事をしていく事そのものが報酬であり、やり遂げる事で共同体・社会から感謝を報酬として受け取れる、と言う事だと思う。一言で言うと「お前のやっている事には意味がある。thx。」 これは「サラリーマンのうた」の「僕も何かの役にたつかも」につながっていると思う。「一生懸命働けば」は「真剣で責任感ある態度を求める」そのものだ。これらはお金にはできない価値だ。まさにプライスレス。

ただ、現状は「良い仕事」の掲げる条件には全くあてはまらない所もあって「平衡のとれた生活」や「仕事そのものの魅力」、「成し遂げる意味」なんかは希薄という人が実際には多いと思う。その現状への不満と嘆きが歌になっているんだけど、その中に「僕も何かの役にたつかも」という部分が入っているのが、嬉しかった。明日をもっといい日にしたい。すごく切ない、みんなの願いだと思う。なんつーかうまくいえないけど、その為にがんばろーぜ!!!!!!! と。

話をちょっと変えるけども、最近のネットのサービスでは他人からの善意(まあ、悪意もあるけど)や評価、好意を伝える事を機能として盛り込んでいるものが多くなったと思う。ニコニコ動画弾幕コメントや、はてなブックマークのコメント、はてなスター、Web拍手、ブログサービスのトラックバックやコメント。こーゆーものが何かを作った人に対する報酬として働いていると思う。初音ミクで作曲演奏して、ニコニコにUPして再生数が10万とかになって、コメントも山のようについたら、作った人にとっては最高の報酬だ。それは「良い仕事」の条件の一部を満たしている。直接お金にはならないとしても、それ以外の報酬がたっぷりもらえる。そーゆー報酬が、作る人の意欲になって、それが拡大再生産を続けている。これはすごく嬉しい事だ。日本始まったな!*1と言ってもいい。

少し悲しいのは、お金を稼ぐ為の労働は苦役で、それで生活を支えて、他の報酬をもらうための活動はまた別、という、分離というか乖離というか、そーゆーものが発生していることか。本当はこれが一本だったら最高なんだけどな。

んー、なんか話が着地したのかどうなのか自分でもわからないな。まあいいや、送信w

ちょっと蛇足的加筆。そういえば似たような価値を認めるSF小説を読んだ事があった。

断絶への航海 (ハヤカワ文庫SF)

断絶への航海 (ハヤカワ文庫SF)

ホーガン、高校2年の夏ぐらいに創世記機械読んでハマって、むさぼるように読んだ。上の小説は貨幣経済そのものが存在しない、お金以外の報酬に価値を認める社会が出来上がって、今の価値観と対立するという話。今でも素朴な疑問で思うんだけどさ、機械技術が高度に発達したら、人は肉体労働から解放されてもおかしくない。農業・漁業・酪農といった食糧生産や、日用品の生産は全て機械がやる世界がやってきたら、人はどうすればいいんだろう? その疑問への一つの答えが、惑星ケイロンという社会だった。
今にして思えば、いい大人が大きな(ある意味バカげた)夢みてんなーと思っちゃうけど、でもそーゆーのいいね!<バカな大人

*1:揶揄とかではなく肯定的な意味で