スキエンティア/戸田誠二

戸田誠二さんのスキエンティアを読みました。もう読み終わってから結構たつんだけど、試験があったり、ほかのエントリ書いたりしていてなんだか手がつかなかった。でも、やっぱりこれはすばらしい作品だと思うので、なんとかして思ったことを書いてみる。

スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

スキエンティア (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

本には7話入っているけど、基本は読み切り。でも、スキエンティアタワーという超高層ビルが建っている世界・時代であることは共通している。そこは今よりもちょっとだけ科学技術が進んでいて、今はまだできないけど、これってできそうな感じがするぞ!という機械や薬が登場する。

他人の体を使える機械。
ホレ薬。
クローン人間。
やる気を高める機械。
低副作用で安全なドラッグ。
介護ロボット。
人の才能を開花させる機械。

ネタだけを見ると、ちょっと星新一のふしぎSFを思い浮かべるんだけど、この作品はものすごくウェットに描かれている。あくまでも人の心・感情が主役で、共通するテーマは「人はどうすれば幸せになれるんだろう?」っていう問いかけだ。それぞれのお話の登場人物が、それぞれのやり方で、それぞれの幸せを求める。科学的なアレやソレが、その人たちの望みを魔法のように実現するような錯覚に陥るけど、それはホントに錯覚でしかない。その答えは、本の最後のセリフで明確に語られるので、ものすごくはっきりしている。これが、なんともいい言葉なんだ。254ページを読んできて、この言葉を置かれると、グっとくる。でも、ここでソレを書いてしまうとお楽しみが台無しになるので、まあ、それを書くのはやめるけどもw みなさんできれば買ってあげてくださいw アフィとか抜きで、この本はみんなに読んでほしい本だし、書いた人にお金が落ちてほしいので。

…これだけで終わるのもナンなので、もう少し違った角度からも書いてみようか。この作品世界に登場するスキエンティアタワーのてっぺんには、そのタワーの名前の通りの名前を持つ「スキエンティア」っていう名前の女性の神様の像が置かれていて、作品中では次のように説明されている。

「知識」、そして「科学の女神」を意味する「スキエンティア」。
私たちの生活は科学技術により便利になりましたが、
自然に対する謙虚さを欠いたとも言えないでしょうか。

−−−スキエンティア。
私たち人間がその技術におごることのないよう、
女神は今日も天空から私たちに警告し、その行いを見つめています。

この神様が、いいんだ。女神は何かをするわけじゃない。奇跡を起こすわけでもないし、天罰を下したりもしない。ただ、そこにあって、見つめている。神様というものの、究極のありかただと思う。ただそこにあり、時の終わりが来るまで見守り続ける。これだけで十分なんだ。私たちは孤独じゃない。人がそう思えるのなら、それが一つの救済だ。そーゆー「神様のあるべき姿」を描いた作品だとも思う。神様の名のもとに殺し合いをしている今の世界に対する、アンチテーゼ。戦争を望む神様なんかいらない、というメッセージが、ひっそりとこめられているような気がしました。

ちょっと追記。「神様」を「科学」に読み替えても面白いね。

と、言う感じで、いろんな意味がくみ取れる味わい深い作品です。戸田誠二さん、初めて読んだけどいいね! 違う作品も買ってみることにします。

もういっちょ追記。この作品を表現するのに「ものすごくハッピーエンドな世にも奇妙な物語」というのも考えていたんだけど、書くの忘れていた。ちと帯をみたら第一話は実際に世にも奇妙な物語でドラマになっていたとのこと。そーゆー感じの作品です。